1.背景
WACA日本知識ネットワークの設立
世界銀行の西アフリカ沿岸域管理プログラム(WACAプログラム)では、沿岸域管理に関する現地の課題解決に世界的な専門知識を活用するため、フランス、日本、オランダ、北欧諸国に「WACA知識ハブ」を設置してきました。
日本には、2021年9月にWACA日本知識ネットワークがWACA知識ハブの一つとして設立されました。一般社団法人国際建設技術協会(以下、IDI)はその暫定コーディネータ―を務めています。
ケープコースト大学・アフリカ沿岸域防災センターとの合意覚書締結
2022年5月9日、IDIはケープコースト大学・アフリカ沿岸域防災センター(ACECoR)と合意覚書(MoA)を締結しました。IDIとACECoRは、この合意覚書に基づいて、日本の関連機関とACECoRとの間の知識の交換、調査研究、研修プログラム、専門家派遣、短期コース、学術協力を通じて、海岸侵食対策、洪水対策、土砂管理における日本の経験、知識、技術が西アフリカ諸国で利用できるよう協力してきました。[IDI HPへのリンク:ケープコースト大学・アフリカ沿岸域防災センターとの合意覚書締結について]
海岸侵食をはじめとする沿岸域の課題への対処には、河川から海岸までの総合的なアプローチが不可欠です。例えば、河川上流部のダムでの土砂堆積による河川下流や沿岸域への土砂供給量の減少により海岸侵食が引き起こされている場合、海岸だけでなく上流のダムへの対策も行わなければ、効果的かつ長期的に持続可能な解決策の導入が困難です。
国土の75%を山地が占める島国である日本は、山から河川、海岸までをカバーする総合土砂管理の豊富な経験を有しています。そこで、WACA日本知識ネットワークでは、「総合土砂管理」を主要テーマとして西アフリカとの連携を模索しています。
総合土砂管理に関するワークショップの開催
2022年5月26日、「WACA諸国における総合土砂管理に関するオンラインワークショップ」が世界銀行、ACECoR、西アフリカ経済通貨同盟(WAEMU)、国際自然保護連合(IUCN)、IDIの共催で開催されました。ワークショップには、WACA諸国の政府機関、流域機関、施設管理者、研究機関などから80名が参加しました。[IDI HPへのリンク:「西アフリカにおける総合土砂管理に関するオンラインワークショップ」の開催について]
2.ガーナへの技術ミッションの派遣
2022年10月22日から11月1日にかけて、ACECoRと日本の統合的土砂管理に関する協力関係を深めるため、WACA日本知識ネットワークと日本のパートナーからなる技術ミッションがガーナを訪れました。ミッションのメンバーは、IDI水資源・防災部長の光橋尚司(写真右)、東京大学工学部土木工学科海岸工学研究室の田島芳満教授(写真左)、パシフィックコンサルタンツ株式会社の辻尾大樹室長(写真右から3人目)と熊谷利彦課長(写真右から2人目)です。また、ガーナ政府、ACECoR、WACA日本知識ネットワーク、世界銀行との調整をサポートするため、世界銀行の舘健一郎上級環境技師(写真左から3人目)もミッションに参加しました。
ミッションはACECoRチームと合同で、海岸侵食や浸水等の沿岸域の課題を抱えるコールラグーン(Korle Lagoon)、ボルタ川河口(Volta river estuary)、デンスデルタ(Densu Delta)、アンロビーチ(Anlo Beach)を訪問しました。アンロビーチでは、海岸地形の合同調査も実施しました。
現地調査の後、ACECoRにおいて、調査結果を共有するとともに、沿岸域の課題への持続可能な対策について意見交換を行いました。また、田島教授より、海岸工学の観点から各現場における海岸侵食の現状分析と今後の展望に関する講義をいただきました。講義では、ボルタ川河口の土砂動態は非常に複雑であり、ボルタ川河口からケタ(Keta)までの広域的な視点で対策を検討する必要があること、また対策の検討にあたってはボルタ川河口の土砂動態メカニズムを理解するための観測・計測・基礎情報の取得と、ボルタ川の総合土砂管理を含む海岸保全計画を策定する必要があることなどが述べられました。これらの活動を通じて、ミッションとACECoRチームは、各現場の土砂動態の状況や課題に関する共通理解を得ることができました。[YouTube:田島先生のACECoRでの講義の様子]
2022年10月31日、ミッションはACECoRのデニス・ワーランヨ・アヒート ディレクターへの報告会を行いました。ミッションから各現場で得られた知見と提言を発表するとともに、総合土砂管理に関する今後の協力を提案し、アヒート ディレクターの賛同が得られました。